1. 世界のM&Aが過去最高記録を更新

7月22日ブルームバーグはゴールドマン社とのテレビジョン・インタビューで、「2007年の記録を更新する可能性が高いようだ」と述べた。「M&Aのペースは加速しており、進行中の案件もその傾向が続くことを示唆している」と伝えています。
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同社がまとめたデータによると、年初来の世界的なM&A規模は、2007年以来初めて3兆ドル(約371兆円)を突破する見通しで、今年、英・オランダ系ロイヤル・ダッチ・シェルによる英BGグループの買収を含め、すでに2万件近く総額2兆1000億ドルのM&Aが成立しました。

2. 日本企業の海外M&Aも急回復

直近、日本企業の海外進出、日本企業の海外M&A(イン・アウト型合併・買収)が大幅に増加。リーマンショック以降、アベノミクス・円安トレンド定着に伴う業績回復を受け、2010年以降、日本企業の海外M&A取引件数・金額も急回復しています。
レコフ社の調査(エコノミスト誌7/28付)では、2015年1~6月期・インアウト型の海外M&A実績は259件で5.8兆円を達成、上半期として過去最高金額を記録しました。
(第一図:レコフ社資料参照)
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今後とも、日本の人口減に伴う国内市場の縮小は確実です。
日本企業は更なる成長・収益確保を海外市場に求め、豊富な資金ポジションを活用した海外進出とM&Aへの取組が、ますます顕著になって行くでしょう。

3. 外国人役員登用に伴うリスクの顕在化

最近、日本企業の海外M&A増加に伴い、外国人役員の人的リスクが顕在化するケースが目立ってきました。
①不正会計防止策等、統制強化のための外国人役員の起用(LIXIL)
②予期せぬ外国人役員の退任(武田薬品工業)
③麻薬取締法違反容疑で逮捕(トヨタ自動車)等 多発しています。
企業のガバナンス・コンプライアンス体制を揺るがしかねないリスクの発生に、日本の企業が業績悪化の穴埋め・自社の風評被害への対応に苦慮しています。

– LIXIL

買収先・独クローエの中国子会社ジョウユウが不正会計で経営破綻し、2016年3月期決算で330億円の特損を計上予定です。この統制強化の旗振り役として、バーバラ・ジャッジ氏を、社外取締役として招聘しました。
バーバラ氏は2012年から東京電力「原子力改革監視委員会」副委員長、本年5月から英国経営者協会会長を務めています。

– 武田薬品工業

一昨年に入社したばかりの取締役、フランソワ・ロジェ最高財務責任者(CFO)が突然退任すると発表、食品世界最大手ネスレのCFOに転身したとのことのことです。
武田薬品の場合、引き抜いた人材を逆に引き抜かれた形ですが、欧米では日常茶飯事。「電撃退任」は、グローバル経営の陣容作りの難しさを浮き彫りにしています。(日経6/25記事より)

– トヨタ自動車

北米トヨタ・グループ広報チーフのジュリー・ハンプ氏は、トヨタ初の外国人女性役員
で、本社の渉外広報業務統括担当に就任しました。6月、日本の麻薬取締法違反容疑で逮捕され、本人が辞表を日本のトヨタ本社に提出、受理されました。
一方、北米トヨタの元上級副社長のクリストファー・レイノルズ氏は、常務役員に就任。
レイノルズ氏は、アメリカでのトヨタ車の「意図せぬ急加速」問題で、最高法務責任者として、米司法省との和解に携わった人物と紹介されています。(WSJ記事より)

4. 北米トヨタをOneSourceでスクリーニングしてみましょう!

OneSourceで見られる外国人役員情報とは、はどんなものでしょうか?
OneSourceは世界企業の役員構成、役員の経歴を提携情報ベンダーから一括収集し、表示しています。
①北米トヨタの役員一覧表
・北米トヨタの役員一覧表(260名分の氏名、職位、職務、入手ベンダー)をダウンロードしてみました。
・OneSourceにログインし、北米トヨタ(Toyota Motor Sales,U.S.A.,Inc)をクリックすると、EXCEL画面が表示されます。
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②役員一覧表・情報の入手元について
OneSourceは北米トヨタ・全役員260名について、職務情報、経歴情報を次の情報ベンダーから入手しています。北米トヨタの場合、全部で5社(OSX,IUSA,LEX,OSWIM,CB)からの情報です。勿論、役員毎に情報の入手先・内容が異なります。
更に、リンクトインとの提携で、リンクトイン情報も同時に見ることができます。
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③トヨタ自動車の今年度・新任外国人役員2名をピックアップ
・26番目にジュリー・ハンプ氏が一覧表で見つかりました。
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・43番目にクリストファー・レイノルズ氏も見つかりました。
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5. ジュリー・ハンプ氏とクリストファー・レイノルズ氏の経歴書

・ジュリー・ハンプ氏の経歴書
ジュリー・ハンプ氏の経歴書については、リンクトイン上の開示情報しか見つかりません。
OneSourceの提携先・情報ベンダー5社の情報は記載されていませんでした。
リンクトイン・サイトに自ら公開した情報(職歴、学歴等)は次の通りです。
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・クリストファー・レイノルズ氏の経歴書
・クリストファー・レイノルズ氏の経歴書データについてはOneSourceの提携先・情報ベンダー3社(LexisNexis,InfoUSA、Avention)の著作権情報が記載されています。
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・クリストファー・レイノルズ氏のデータで、同氏が米国の憲法上の権利保護団体(Constitutional Rights Foundation)の理事会メンバーを兼務していることが分かりました。
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・OneSourceでは、役員経歴書とともに本人の関連ニュースが同時に表示されます。
クリストファー・レイノルズ氏は、元ロサンゼルス・タイムズ誌の元・ツーリズム担当記者であり、当時の執筆した記事も載っています。
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(2段目:Awalk around LosAngeles’ park neighborhoods By Christopher Reynolds)
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6. 経歴調査は事前・事後のフォローが大事

日本企業にとって、人種、言語、宗教の壁を越えた「ダイバーシティ」の人材登用・推進が、海外進出、海外M&Aの成長過程で避けて通れません。しかし、思わぬリスクに直面することがあり、人材登用にあたっての事前・事後のチェックがますます重要になります。
日本の大手企業の場合、外国人役員採用では、自前で経歴の事前調査を直接行うケースは稀であり、専門の調査会社に一任委託するケースが殆んどです。増してや外国人役員を登用した後の事後チェック・フォローに至っては、心もとない限りです。
受け入れ側の日本企業としては、事前・事後の最低限のチェックは絶対欠かせません。
外国人役員が自社の事業・文化に定着し、大いに手腕を発揮できる企業風土を醸成するため、また自社ガバナンス維持のために、地道な努力がいよいよ必要になってきました。
以 上